11月の韓国といえば、街全体がピリッと緊張する“特別な日”があります。
それが、大学に入るための入学試験「수능 (スヌン)」。
韓国全体がこの日を重要視しており、その影響力はまさに“国家行事級”です。
人生を決める韓国の試験『スヌン』とは ?

『スヌン』は1994年に始まった韓国最大の全国統一試験で、日本の「大学入学共通テスト」にあたる存在です。
毎年11月中旬の木曜日に実施され、スヌンの結果が人生を左右するとまで言われています。
この日のために何年も準備し、高校3年間のすべてをこの一日に懸ける受験生たち。
「良い大学=良い就職・結婚・人生」という価値観が根強く、スヌンはまさに“人生最大の勝負の日”です。
大変なのは受験生だけじゃない

受験生たちにとっては人生を左右するほど重要な試験ですが、実はその試験問題を作る人たちの生活も想像を絶するほど過酷なんです。
出題を担当するのは、大学教授や高校の先生など、全国から選ばれた約300名の専門家たち。
試験が終わるまでの約36日間、完全に隔離された生活を送るんだそう。期間中は電話・メール・インターネットの使用はもちろん、外出も一切禁止。まさに“監禁生活”という言葉がぴったりで、外の世界とのつながりはゼロになります。
もし家族に不幸があった場合のみ、警察官や保安要員の付き添いで数時間だけ外出が許されるんだそう。
ここまで徹底して管理される理由は、言うまでもなく試験の公平性を守るため。全国で同じ時間に同じ問題を解くこの試験では、1問の流出すら許されません。
そのため、問題作成から印刷、運搬、採点に至るまで、国家レベルで厳重な体制が敷かれています。
社会全体が試験生を徹底サポート

スヌン当日は、韓国全体が受験生を最優先に動きます。
- 地下鉄やバスは早朝から増便
受験生が遅れないように、朝早くから臨時便が運行されます。 - 飛行機の離発着が一時停止
英語リスニング試験の40分間は、全国の飛行機の発着が禁止に。 - パトカー・白バイが受験生を送迎
遅刻しそうな受験生は、警察車両が会場まで直行で送ってくれます。 - 企業の始業時間を遅らせる
受験生が時間通りに会場へ行けるよう、ほとんどの企業が出勤時間を遅らせます。 - 試験会場200m以内の道路は封鎖
騒音や渋滞を防ぐため周囲は一時通行止めに。 - 軍事演習も中止
空軍の実弾射撃訓練や軍事演習も延期に。
さらに試験会場近くでは、騒音を防ぐために工事や点検を一時中止。警察・自治体・市民が一体となって、受験生をサポートします。
縁起のいい差し入れ

受験シーズンになると、韓国の街では「合格祈願グッズ」があちこちに並びます。
縁起のいい差し入れとして人気なのが『お餅(떡/トッ)』や『飴(엿/ヨッ)』。どちらも粘り気があり、「試験にしっかりくっついて離れないように」という願いが込められています。
一方で、わかめのようにヌメリのある食べ物は「滑る」イメージから、「試験に滑る」「知識が流れる」といった不吉な連想をされるため、受験期には避けられることも多いんだそう。
こうした験担ぎの文化は日本にもありますが、国ごとに意味や習慣が少しずつ違っていて面白いですよね。
観光客が気をつけたいポイント

スヌン当日は、街の雰囲気がいつもと違います。交通規制やお店の開店時間が遅れることもあるので、旅行中の方は要注意 !
1. 交通の混雑・規制に注意する
地下鉄やバスの運行時間が変更されたり、ルートが一時的に変わる場合があります。混雑しているときは、受験生に席を譲ってあげましょう。
2. 空港での遅延に備える
英語リスニング試験中 (約40分間) は、飛行機の離着陸が一時停止されます。便によっては離陸が遅れたり、滑走路の順番待ちで到着が少し遅れることがあります。
3. 静かに過ごすよう配慮する
試験会場付近では大声や騒音は控えましょう。受験生の集中を妨げると、警察官から指導を受けることもあります。
4. カフェやレストランが混雑する
試験後には家族や友人が受験生を迎えに来るため、周辺の飲食店やカフェがかなり混雑します。観光で立ち寄る場合は時間帯をずらすのがおすすめです。
5. 警察官・警備員が多いことに驚かない
普段よりも警察官や警備員の姿が格段に多くなりますが、これは受験生の安全を確保するため。観光客も普通に通行して問題ありません。
スヌンが終わったら『整形ラッシュ』

実は、スヌンが終わると美容外科・クリニック業界は大忙し。受験を終えた学生たちが整形・レーシック手術を受けに殺到します。
韓国では、受験勉強を頑張ったご褒美として、整形やブランドバッグなどをプレゼントする文化もあり、スヌン直後に高校生とお母さんが一緒にカウンセリング回りにいきます。
しかも、多くのクリニックでは受験票を見せると「受験生割引」が適用されるので、この時期は予約が取りづらくなるほど混雑します。
スヌンは毎年11月中に行われるため、この時期を避けてスケジュールを組むのがおすすめ。11月後半以降に韓国で美容施術を予定している方は、早めに予約しておくと安心です。
スヌンを通じて感じること

韓国の“受験戦争”には暗い影もあり、毎年のように過労・ストレス・自殺のニュースが報じられます。
政府の調査では、韓国の子どもの幸福度は先進国中で最下位。過剰な競争とプレッシャーが社会問題として議論されています。
スヌンは単なる学力テストではなく、家族・社会・国家が一体になる日。同時に、教育のあり方を問い直す日でもあります。
受験生の努力が報われ、「競争」ではなく「希望」を感じられる日であってほしい。試験に向けて努力を重ねる学生たちを心から応援したいですね。

